心臓リハビリとは

心臓リハビリテーション画像

心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)は、心臓の病気を抱える患者様が、体力を回復し、自信をもって家庭生活や社会生活、地域の活動に復帰できるようにします。また、病気の再発や再入院を防止するためにも行うもので、運動療法、生活指導、カウンセリングなどからなる総合的活動プログラムとなっています。

以前は心臓の負担を軽減するために安静にしていることが良いとされてきましたが、現在、状態が安定している慢性的な心臓病に関しては、安静を続けることによる体の運動能力や調節機能の低下が逆に悪影響を及ぼす場合があると考えられており、その改善を図るため、心臓リハビリが重要であると捉えられています。

当院では、日本心臓リハビリテーション学会心臓リハビリテーション指導士である院長を中心に、理学療法士、看護師、作業療法士等の方々がチームとなって、患者様お一人お一人の状態に合わせたプログラムを作成し、患者様の様々な不安を解消しつつ、心臓リハビリを行っていきます。

心臓リハビリは予防という観点では、薬だけによる治療に勝る効果があると期待されており、また寿命を改善することも明らかになっていて、現在では重要な心臓病治療のひとつとなっています。当院では、そうした治療を地域にあって身近で受けられる環境を整えていますので、お気軽にご相談ください。

対象疾患

心臓リハビリは、主に以下のような疾患の方、手術後の方が対象になります。

  • 狭心症の方
  • 心筋梗塞発症後、治療を終え退院した方
  • 慢性心不全で治療中の方(適応基準あり)
  • 心臓の手術後の方
  • 大血管疾患(大動脈解離、解離性大動脈瘤、大血管手術後)で治療中の方
  • 下肢閉塞性動脈硬化症で治療中の方
  • 経カテーテル大動脈弁置換術後(TAVI後)の方
  • など

※通常、心臓リハビリ開始から150日間は健康保険が適用されます。例外として、医師が継続の必要があると認めた場合は150日を超えて健康保険が適用される場合もあります。

心臓リハビリで行うこと

心臓リハビリは病状により入院中から始まるものもあり、さらに退院後、3ヶ月程度(最長で5ヶ月)、週1~3回程度、通院によるリハビリを行い、在宅リハビリに移行するというのが一般的とされています。当院では通院によるリハビリを行っており、内容は以下のようになります。

運動療法

心疾患の手術後あるいは治療中の方は、どのくらい活動しても大丈夫なのかが分からず、不安を感じている方も多いでしょう。そうした際に心臓リハビリで適切な運動療法を行うことが役に立ちます。運動療法の実施にあたっては、まず病気の状態や各種検査結果を確認し、その上で、有酸素運動や筋力増強運動(レジスタンストレーニング)といった運動療法を実施します。検査としては、採血や採尿、胸部X線検査、心電図、心臓超音波などの他、以下のようなものがあります。

InBody測定

簡単に筋肉量や脂肪量、水分量などの体組成を測ることができるものです。InBodyで得られた情報をもとに、運動療法の他、生活指導・栄養指導も行っていきます。

CPX(心肺運動負荷試験)

顔にマスクを装着してエルゴメーター(自転車)で運動をしていただき、運動中の心臓・肺・骨格筋の機能などを測定するものです。障害のある臓器の部位や程度、息切れなどの症状の原因を調べることができ、どのくらいの負荷ならば安全で効果的な運動ができるのかが分かります。それに従って「運動処方」を決めることができます。

運動療法の流れ

  1. 各種検査の結果に基づき、 まず医師が患者様に最適な運動について、薬の処方のように運動の種目、適切な強度・時間などを指示した「運動処方」と呼ばれるものを作成します。
  2. その「運動処方」に基づいて、エルゴメーター(自転車)やトレッドミル(ルームランナー)などのマシンを用いた運動を行います。
  3. 運動前と終了直後に、心拍数、心電図、血圧などをチェックします。

以上のような内容を、医師や専門スタッフの管理のもと、それぞれの患者様に適したプログラムを作成し、実施していきます。

※次のような患者様は、運動療法の適応になりません。

  • 急性期の心筋梗塞、あるいは安定していない心不全の方
  • コントロールされていない心臓病の患者様
  • 危険な不整脈が出現する患者様など

各種指導(生活指導)

心疾患の悪化や再発予防のため、服薬の仕方や自己管理(水分・塩分摂取量、喫煙、飲酒、感染予防など生活における注意点)、栄養の取り方などについての指導を行うものです。

自己管理指導

当院では医師やスタッフが患者様としっかりとコミュニケーションをとり、生活習慣面で注意しなければならないことや、感染予防などについて指導を行っていきます。また、何か変化があった時の早期受診の目安を知る上で、自分の体調を把握しておくことは重要です。そのため、「心不全手帳」をもとに患者様ご自身が体調の変化を認識できるよう、サポートと指導も行っていきます。日常生活を送る上での不安点や疑問点についてもご相談していただけます。

栄養指導

心臓病を再発・悪化させる動脈硬化などの要因の進行を抑えるためには、食習慣の改善は非常に重要です。塩分の摂取量を調節するなど、バランスの取れた食事により栄養状態を改善することで、運動療法の効果も最大限に得られることが知られています。日常の食事についてのお悩みなども、お気軽にご相談いただけます。

カウンセリング

心臓病を経験した患者様の中には、「いつまた苦しい症状が出て、生命の危機に陥るかわからない」と、日常生活に不安を感じられ、外出に消極的になってしまうなど、日常生活に制約が出てしまう方や、自己管理等について、「実践するのが難しい」という悩みを持たれる方がいらっしゃいます。そうした方に対して、カウンセリングを行い、個別にどうやって病気と向き合っていくか、疾患管理の方法なども考え、前向きに日常生活を送っていけるよう、サポートしていきます。こうしたカウンセリングも、重要な心臓リハビリテーションの一環です。

心臓リハビリの効果

心臓リハビリを行うことにより、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)の患者様では、心臓リハビリを行わない場合に比べて死亡率が26%低下し、入院のリスクが18%低下するという数字が報告されています。また心不全の患者様では、同リハビリを行わない場合に比べてあらゆる入院が25%減少し、心不全による入院が39%減少するという数字が出ています。

心臓リハビリテーションでは以下のような効果が認められています。

  • 心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少します。
  • 心不全の再入院が減り、死亡のリスクが減少します。
  • 運動能力や体力の向上により、息切れなどの心不全症状が軽くなります。
  • 筋肉量が増えて楽に動けるようになり、心臓への負担が減ります。
  • 血管が広がりやすくなり、血液循環が良くなります。
  • 自律神経の働きが安定し、不整脈の予防につながります。
  • 動脈硬化の元になる冠危険因子(高血圧や脂質異常症、肥満など)が改善します。
  • インスリンの効きが良くなり、血糖値(糖尿病)が改善します。
  • 精神面でも自信がつくことで、不安やうつ状態が改善します。

上記のようなことから、生活の質(QOL : quality of life)が改善し、充実した毎日を過ごすことができるようになります。